数年前までのことだが、ある女性の経済評論家がしきりに繰上げ返済を勧めていたことがあった。経済評論家といえば、世界経済や日本経済の動向を見るマクロのアプローチもあれば、家庭の家計のチェックをするミクロのアプローチもある。どちらが高尚というわけではないが、この女性経済評論家の方は、後者のほう、しかもかなりレベルの低い方であって、家計簿を見て、この項目を減らせ、この項目を増やせ、とアドバイスする程度。この人が、ローンを抱えている家計があれば、なんとかの一つ覚えのように力説していたのが、「貯金する余裕があるなら、できるだけ繰上げ返済にまわせ」ということだった。
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一〇〇万円以上たまったら、すぐに繰上げ返済しなさい、そうすれば、いくら金利が儲かる、と必ずといっていいほどおっしゃるので印象に残っている。確かに、昔も今も繰上げ返済の効率は高い。一〇〇万円を繰上げ返済すれば、最終的にカットされる利息は数百万円単位にのぼるケースも少なくない。それゆえに、理屈からいえば、お金があったら繰上げ返済しろ、という女性経済評論家の主張は間違ってはいない。だが、何でもかんでも繰上げ返済すればいいというようなものではないことは、その後の経済環境の変化から明らか。彼女はマクロが見えない間抜けな経済評論家であった。経済環境の変化とは、景気低迷に伴うリストラの嵐だ。景気低迷そのものは過去何度もあったが、企業のリストラは、もはや終身雇用制が崩壊したことを明らかにした。あの日本的雇用体制を堅持していた松下電器産業でさえ、リストラに踏み切ったのである。現在の失業率は五パーセントを超え、実質的には八パーセントにも達しているといわれる。大量の失業者が巷にあふれているのが現状だ。巨額の住宅ローンを抱えて失業している方も多いだろうし、そうでなくとも、いつ首を切られるかわからない。サラリーマンの終身雇用制はもはや幻想となってしまった。ということは、長期の住宅ローンの前提はなくなってしまったということで、安易に貯金ができたからといって返済にまわすことは“恐ろしくて”できないのである。その分、キャッシュとして持っていて、万一の時に利用できるようにすべきだろう。