一級建築士は膨大な資料を作成し、竹中試算の矛盾を突いた。「現時点では使用に支障のないものまで、数年先には取替えが必要であるとして補修費のなかに参入するならば、その費用はとめどがなくなる」(「マンション学第八条(日本マンション学会)」)。じつのところ新築一辺倒で歩んできたスーパーゼネコンは、少額の修繕工事の経験がほとんどない。実際的な修繕ノウハウも持ち合わせていない。だから大ざっぱな見積りになる。一級建築士は「老朽化」にも言及する。
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「桜ヶ丘の建物は『老朽』とはいえない。ひび割れ、鉄筋露出、コンクリートの欠落などの劣化現象は建物の構造体に根幹的な影響を与えるものではなく……いずれも容易に修復可能なものである……。電気容量不足、洗濯機置場不在、ベランダ二方向避難の不可能性は、いずれも時代変化に合わせて改修可能である」(同前)一級建築士は具体的な材料をもとに戸別の負担額を「五〇万六千円」と算出した。しかし控訴審でも「多数の利益」を盾に反対派の主張は退けられる。最高裁へ上告し、二〇〇一年に棄却されるまで政利闘争は五年に及ぶ。Sさん家のダイニングで、夫妻が漠然とした不安を覚え始めたころ、新千里桜ヶ丘の状況は混沌としていた。不動産、建設業界は、裁判の争点である「客観的要件」を目の上のコブ、重大な障害物ととらえるようになった。